前の記事「免許返納を考えている方やそのご家族の方へ1」では、高齢者の現状と、事故を起こしてからでは遅いということをお伝えしてきました。
⬇︎ 前の記事はこちらです
今回はさらに具体的に深く考えていきます。
こちらの記事を読んでいただければ、免許返納を促す際の準備や説得をスムーズに行えます。
大変かもしれませんが、「老い」は誰にも訪れ、車やバイクを運転するものにとっては避けては通れない問題です。
この問題を頭におきながら免許返納を促しましょう。
その際に、相手の気持ちを否定しないことが大事です。相手の話を聞いていきましょう。
第一種カウンセラーの資格を持つ私からもアドバイスします。
ぜひ一緒に考えていきましょう。
【絶対ダメ!】免許返納の説得をする場合、返納する本人の気持ちを否定しない
高齢者の事故のニュースを見ていると不安になり、「もう高齢だから危ないな」と心配に思い、大切な方に免許返納してもらいたいなぁ・・・と考えるようになりますよね。
ご家族や周囲の方の免許返納を促したり、説得する場合、返納する本人の気持ちを否定しないこと。
これが大前提です。
なぜなら、それはその人の人生を否定することと同じことを意味するからです。
お気持ちはわかりますが、「もう歳だから返納してほしい」というのはあまりに乱暴です。
当の本人が問題を分かっていて迷っていたとしたら、自分自身を否定されたと感じ、逆に頑なになってしまいます。
免許を返納しても大丈夫だと自信を持ってもらうはずが、全くの逆効果。
免許返納される方の気持ちを否定しないようにしましょう。
【免許返納】相手の話をまずはじっくり聞く
「盗人にも五分の理を認める」と、デール・カーネギー 著「人を動かす」には書いてあります。何らかの犯罪を犯した人にも理由がある、という意味です。
高齢者が「悪い人」という意味ではありません。
安全に運転できない状態にある方にも、「まだまだ車に乗りたい、乗っていたい!」と強く主張する、そう思う理由があるんだよ、というお話です。
それでも危ないから免許返納を早く決めてもらいたい!と思われる方は多いです。
しかし実際には人を説得するということは大変で時間がかかります。
デール・カーネギーの「人を動かす」には、人を説得することについて次のように書かれています。
人を説得する十二原則
【原則1】議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける。
「人を動かす」デール・カーネギー著
【原則2】相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない。
【原則3】自分の誤りをただちにこころよく認める。
【原則4】おだやかに話す。
【原則5】相手が即座に”イエス”と答える問題を選ぶ。
【原則6】相手にしゃべらせる。
【原則7】相手に思いつかせる。
【原則8】人の身になる。
【原則9】相手の考えや希望に対して同情を持つ。
【原則10】人の美しい心情に呼びかける。
【原則11】演出を考える。
【原則12】対抗意識を刺激する。
免許返納を促したい方がいる場合、いきなり「免許を返納してよ」と言っても聞いてもらえません。
その方にも免許を返納したくない理由があるからです。
まずはじっくりと相手の話を聞いていきましょう。
- 「免許を持ち続けることや免許返納に対してどういった気持ちでいるのか」
- 「高齢者講習や認知機能検査(またはその結果)についてどう思っているのか」
というお話も大切ですが、
- 車の運転について
- 運転にどういう思い出があるのか
など、身近なお話から始めると、聞いてもらえたり話しやすくなります。
そして相手が話したいことをとことんまで話させて、自分で納得していってもらうのです。
話をとことんまで聞く!
これが大事だよ。
相手の話を聞くコツは「オウム返し」!
相手の話をとことんまで話を聞くのは分かったけれど、どう聞いたら良いのかな?と、最初は分からないですよね。これにはコツがあります。
相手のお話を聞くコツは「オウム返し」です。
次のように実践してみてください。
みんなと車でもっと出かけたいんだ!
なるほど、みんなと車でもっと出かけたいんだね。
相手の話を否定せずに、オウム返しです。普段の生活の会話の中で、これを実践して話を続けてみてください。
どうやって車やバイクの免許を取得してきたのか。
車やバイクに乗ってどんなことをしてきたのか。
ご家族との思い出があるかもしれませんね。
その中の思い出にあなたがいるのであれば、「なるほど、そうだったねぇ」と、ひたすら「うんうん」と聞いていきましょう。
相手が話すお話や思い出話に、丁寧に自然な形で「オウム返し」するのがベストです。
時間がかかっても地道に話を聞いていきましょう。
そんな風にお話を聞き続けていくと、ふと「そろそろ免許も返納かなぁ」などとポロッと話題に上がってきます。
例えば事故のニュースを見て…
「これは危ない事故だなぁ」
「そうだね、危ない事故だね」
…というお話をしたとき、初めて「そろそろかなぁ」と思い始めるのですね。今まで話を聞いてもらっていたあなたに、そう話してくるようになります。
そのときに「そうだね、そういう年齢だものね」と、お互いが同じ気持ちになることができ、「免許返納」に向けて具体的なお話ができるようになっていきます。
お互いが同じ気持ちになることで、準備が少しずつ整っていくのですね。
この場合にもオウム返しを使いましょう。
「なるほど、○○だと思うんだね?」
「そうなんだ、○○なんだね」
そうして初めて、「私はこう思うよ」など、免許返納について肯定的に話を進められるのです。
これはじっくり時間をかけてお互いがちゃんと向き合ってきたことで、信頼関係が得られたからこそできることです。
時間をかけて相手のことを否定せずにずっと話を聞いてあげることで、相手の中にも「話を聞いてくれるなぁ」「理解してくれるなぁ」という感情が芽生え、話は前に進みます。
言わば「人間関係の再構築」。
仲の良い親子であっても、親戚であっても、友人であっても、もう一度信頼関係を築いていく必要があるのです。
このあとは免許返納への話を聞くことに加えて、特に家族や周囲のサポートが必要になります。
さらに考えていきましょう。
免許を返納するご本人がご病気の場合は全く話が変わります。
その場合は、まずは医師にご相談くださいね。
認知機能が落ちている高齢者でも体が運転を覚えている
少し話が逸れますが、運送業をしてきた高齢者の方にはびっくりさせられます。
70歳を超えてもあの難しい首都高速道路をすいすい走り抜けて行く。
「高速道路は怖い!」というドライバーが多い中、運送業でずっとご飯を食べてきた、家族を養ってきた方々は、高齢者であっても自信と経験によって複雑な道路も運転できてしまいます。
体が覚えているのです。
認知機能検査であまり結果が良くなかった方でも、意外と運転できてしまうことはご存知ですか?
人によりますが、長く運転してきた場合は認知機能が落ちていても運転可能な場合があります。
経験してきたことを体が覚えているのですね。
ところが高齢になると、運転中に危ないと思うことが頻繁に起こって、危機感を覚えるようになります。
「運転には自信があったんだけれどなぁ」と少し寂しく思っているのですね。
そういう気持ちでいるところへ「運転はもうやめろ!」と言うのはとても乱暴なのです。
先ほど書いた通り「これで生きてきた・家族を養ってきた」と言う自負がある方にとっては、その人の人生を否定することになり、想像以上に傷つけ揉めることになります。
突然正論を突きつけられても、受け入れることができないのです。
自分ではまだまだ元気だと思っている。
しかしそろそろ運転は危ないかなぁとも思っている。
そこに突然「もう無理だよ」と突きつけられる。
驚き、戸惑い、傷つき、自分はもう終わりなのだろうかとまで考えてしまいます。
自分だったらどう思うか考えてみるのが大事だよ。
自分では普通に運転していると思っていたところに、いきなり
「危ない運転だね」
「気をつけたほうがいいよ、免許返納したほうがいいんじゃない?」
などと、冗談でも急に言われたら、年齢に関係なく自分を否定された気持ちになり、とても傷つきますよね。
先ほどのデール・カーネギーの「人を動かす」という本には次のように書かれているよ。
人を動かす三原則
【原則1】批判も非難もしない。苦情もいわない。
「人を動かす」デール・カーネギー著
【原則2】率直で、誠実な評価を与える。
【原則3】強い欲求を起こさせる。
相手を否定せず、少しずつ話を進めていきましょう。
免許返納後の周囲のサポートは可能かしっかり話し合おう
相手を「免許返納する」という気持ちに持っていく前に、「そのあとの周囲のサポートは可能か?」という話し合いをすることはとても重要なことです。
せっかく相手がその気になったのに、「そっちを忘れていた!」となったら最初からやり直しになりかねません。
サポートが可能であるかどうかはしっかりと話し合っておくべき事柄です。
- 日常の買い物はどうしていくのか
- 通院がある場合、どのように通院することになるのか
- ご飯の準備はどうしていくのか
- 自分たちが代わりに運転していってあげることが可能なのか
- 買い物に行けなかった場合、どういったサポートが可能なのか
- 遠方に住んでいる場合、どのように支えていくのか
- 生活しやすいところに引越しをしてもらうことは可能か
- 今も今後も一緒に住む家族はいるのか
- その他、事情によって追加されていきます
途端に頭によぎるのは「介護」という問題です。
介護も大事な問題ですが、今回は「免許返納」に注視してお話ししていきますね。
家族や周囲のサポートなどの話し合いが全くされていないという状態で、免許返納のお話を進めることはできません。
日頃からしっかりと、どのように支えていくことが自分たちに可能なのかを考えていきましょう。
自分だけで全てを背負ってしまうのは、あとあとつらくなってしまいます。
なるべく「自分にできること」「誰かにお願いすること」などに分けて考えていってくださいね。
自治体などにも相談しましょう。
なるべく早めに周りの皆さんでお話を進めていくのが良いですね。
【とても大事!】日常の買い物をどうするかもしっかり考えよう
毎日行くところがあったり、週に何回かの買い物に車やバイクで出かけていた場合などは、どうしようか考えてしまいますよね。
歩いて行ける距離にお店がある場合は、お散歩がてら歩いていくこともできると思われますが、重たいものなどの買い物は難しくなります。
免許返納される方やその周りの皆さんで、「いつも本人だけで行くところは、免許返納後はどうしていくか」を考えていきましょう。
おうちCO-OPさんなどは昔からある食品の宅配サービスでおすすめです。ご自分でお食事をつくられる方の場合は、ぜひお試ししてみましょう。
インターネットが使えなくても、カタログを見て選ぶことで宅配サービスを受けられます。
ほかにもありますよ(^^)
冷凍のお弁当を宅配してくれるサービスもあります。
火を使わないのも安心ですね。
もしかしたら、お食事代の心配があったり、配送料がかかるサービスでご不安かもしれません。
これは次のように考えてみましょう。
車やバイクを手放すことになると、今まで必要だった税金やガソリン代、任意保険料や車検やタイヤ代などの維持費は全てなくなるので、経済的な負担は軽くなりますね。
今までの車やバイクの負担がなくなったところで、おうちCO-OPさんやヨシケイさんなどの宅食・宅配サービスを上手に利用しましょう。
私たちは「おうちCO-OP」の宅配サービスをお試しで利用してみました。
食品やお弁当の配送サービスは栄養にも気を配ることができるので積極的に利用することをおすすめします。
離れて暮らすご家族が注文することもできるから安心だね。
免許返納後に受けられる特典を知ろう
警察などへ自主返納される場合、免許を返納する際に希望すれば「運転経歴証明書」を交付してもらうことができます。
「運転経歴証明書」は身分証明書として使うことが可能です。
タクシーに乗ったときに割引してもらえたり、各自治体によってさまざまな特典があります。
免許返納を考えるときには、返納される方がお住まいの自治体などに、どのような特典があるのかを必ず確認しましょう。
まだ免許返納のお話の途中でも、調べて先に知っておこう♪
【免許返納まで安全運転を続けるために】サポカー制度を利用しよう
免許返納へのお話を続けている間も、アクセルとブレーキの踏み間違いの事故を心配される方は多いですよね。
皆さんはサポカー制度はご存知でしょうか?聞いたことはあるという方は多いのではないでしょうか。
今後は高齢者の免許保持には「サポカー」に乗っていることも条件となります。
「サポカーってなに?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。まずはサポカー制度を知りましょう。
サポカーとは「セーフティ・サポートカー」の愛称です。
こちらがサポカーのロゴです。
どこかで見たことがあるかもしれないですね。
この制度は政府がすすめるものです。
65歳以上の方がサポカー機能を搭載した車を新しく購入する場合や、後からつける場合は、最大10万円の補助金が出ます。
事故を完全に防ぐものではありませんが、免許返納までの間はサポカーを上手に利用して安全運転を続けていきましょう。
⬇︎サポカーについてはこちらに詳しく書きました。
【運転をしない生活】高齢者の生活の質の向上を目指そう
免許返納を考え始めるとき、高齢者にはほかにも一緒に考えることがあります。
それは「まだ体が元気なうちから運転しない生活に慣れていく」ということです。
例えば
- 日頃から運動をする
- ちょっとしたお出かけに車を使わずに行ってみる
- またはタクシーなどを使ってみる
- 認知機能の低下を防ぐために、日記をつけることを日課に入れる
などです。
これは少し時間をかけて慣れていく課題ですが、すぐに免許返納となるととても厳しい問題になってしまいます。
免許返納を促す場合は、運転しない生活を想像して、生活する上で必要なことや、試しておいた方が良いことをひとつひとつ洗い出しましょう。
また、高齢者の生活の質の向上を目指していく必要もあります。その方法は実はとてもシンプルです。
- 日記をつけてみる
- 塗り絵や脳トレをしてみる
- お散歩をして外出してみる
- 簡単な運動を続ける
このように好きな趣味などや運動をして、認知機能の低下の予防に努めることです。
少しずつ続けていくことで高齢者の生活の質は上がります。
簡単なお散歩だったり、一番やりやすいと感じたものから始めると良いですね。
免許制度で高齢者となるのが70歳というだけで、70歳はまだまだ若い年齢です。高齢になってからも元気な方は毎日を楽しく過ごせます。
一人では難しい場合は、皆さんで手を貸しながら、ぜひ少しずつ続けてもらうようにしていきましょう。
【免許返納のために】必ず参考になる本5冊!読んで知識を得よう
免許返納のお話を進める場合に、参考になる本を5冊ご紹介します。
こちらは交通心理学会会長をされている、松浦常夫先生が書かれた本です。
認知機能検査の内容は合理化される前のものですが、内容はさすが!専門的です。
といっても、読みにくいわけではありませんよ(^^)
より専門的なので詳しく知りたい方におすすめです。
こちらは産業・組織心理学、生涯発達心理学を専門とされる所政文先生、認知症介護研究をされている小長谷陽子先生、交通科学、医工学、法科学、人間工学を専門にされている伊藤安海先生の本です。
新書でサラッと読めるのでおすすめです。
こちらは脳神経外科の先生で、ふれあい鶴見ホスピタルに「もの忘れ外来」を開設された石井映幸先生の本です。
認知症などについては専門的でありながら、分かりやすく書いてあり読みやすいですよ。
だいたい1〜2時間くらいで読めてしまいます。
こちらはこの記事によく出てきた、とても有名なデール・カーネギーの「人を動かす」という本です。
人間関係を円滑にする術は全て載っていると言っても過言ではありません。
まさに一家に一冊の本です。
こちらはまさに「運転を諦めたくない高齢者の気持ち」が載っている良書です。
雑誌(ムック本)ですが、高齢者が読んでも、免許返納を促したい方が読んでもとても分かりやすい内容になっています。
免許返納を促す場合は、自分でもいろいろと調べて知識を得ることが大切です。
どの本もとても為になるので、免許返納問題に悩まれていたり考えている方はぜひ一読されることをおすすめします。
どれかか一冊といったら、デール・カーネギーの「人を動かす」、または「運転をあきらめないシニアの本音と新・対策」がおすすめです。
今あなたがご家族や周囲の方にするサポートは必ず将来のあなたを助ける
ご家族や周囲の方の免許返納を促すだいたいの方は、大変なことや困ったことに直面されます。
この経験は、間違いなくこれからのあなたを助けます。
皆さんがご家族や周囲の方に免許返納してもらえたら、ひとつの大きな問題を解決したことになりますよね。
とても大変だったことは想像するに難くなく、これからもサポートを続ける必要があるかもしれません。
ただ、今後車の事故のニュースを見て、免許返納された方が加害者として事故を起こすことはなくなったと実感するはずです。
とても大変だったと思いますが、それだけ意味や価値のあることです。
そしてこの経験は、ご自分が免許を返納されるときに必ず自分自身をも助けてくれるに違いありません。
どのように世の中が変わっていっても、いつかは運転をやめる時がきます。
そのとき「そろそろ免許を返納した方が良いな」とほかの誰よりも判断でき、そのための準備も容易に行えます。
安全運転をし続けていくのは高齢者だけではありませんからね(^^)
未来ではもっと素晴らしい性能の車が出てくることでしょう。
新しい技術に期待しつつ、今後もずっと安全運転を続けていきましょう。
最後に
人間は誰でもいずれ老います。
核家族化が進んで個人の自由は確かに広がっていきましたが、高齢者のみで暮らす方々も増えました。
それでも「老い」だけはもうどうしようもなく訪れるわけですよね。
- 今までできていたことができなくなる。
- 見えていたものが見えにくくなる。
- 新しいものにだんだんとついていけなくなる。
これは自然なことです。仕方ありません。
そうなった時にどうするか考えておくことが大事です。
検査をした結果認知症であっても、認知機能が低下している状態であっても、大切な家族には健やかに生活してもらいたい。
免許返納に限らず、将来の自分はもちろんのこと、ご家族や周囲にいる人のことを「他人のこと」として捉えず、全てを「自分のこと」として考えていけたら、高齢となっても楽しく生活していくことができます。
ご両親や周囲の方が免許を返納されても、きっと大丈夫。車のCMにあったように、モノがなくなっても、記憶に、思い出に残ります。
一番大切なことは、免許返納をしても毎日を健やかに過ごしていくこと。
免許返納を促したり説得することはとても大変かもしれません。
明るい未来に向かうことであることを忘れず、少しずつお話を進めていってくださいね。